「ただいま」と「おかえり」






 


 「ただいま」と「おかえり」を言ってくれる家は、万事屋が初めてだったヨ。



 

 



 「 た だ い ま 」 と 「 お か え り 」 


 

 



「万事屋に居れて、本当に良かったヨ」

 私は、ぎんちゃんに向かってそう言った。
 場所は玄関。
 手には愛用の傘。

「か、ぐら、」

 銀ちゃんはかすれた声で私の名前を呼んだ。
 だけど私は、銀ちゃんに向かってにこっと微笑むだけ。

「江戸は、本当に楽しいところだったアル」

 こんな言葉は、ここからいなくなる人が言う事だ、って銀ちゃんにはすぐにわかってしまうアルネ。
 でも私は、そのまま話を続けた。

「姉御は、とっても優しくて、本当のお姉ちゃんみたいだったし、
 ババァやキャサリンもいつも優しかったネ。
 ・・・キャサリンは優しくなかったかもしれないけど。
 ヅラやエリーも良くしてくれたし、面白い奴等だったヨ。
 真選組の奴等は嫌いだったけど、本当はいい奴らばっかりアル」

 みんな、みんな大好きだったヨ。
 江戸にいる人は、みんないい人ばっかりネ。
 そして、そしてネ、

「万事屋は一つの家族みたいだったヨ。
 定春がペットで、新八がマミー、銀ちゃんはパピーヨ
 はじめての、ちゃんとした家だったアル」

「お前の家と思ってくれていいんだよ、」

 ああ、銀ちゃんはやっぱり優しいネ。
 いつもは死んだ魚の目をしててだるそうなのに、いざってときは目が輝いてかっこよくなる。
 死んだ魚の目の銀ちゃんも、目が輝いてる銀ちゃんも、大好きアル。
 
「万屋は本当の家じゃないアル」

 万事屋が本当の家だったら良かったのに、って私が何度思ったか銀ちゃんには予想もつかないデショ?
 もう、数え切れないほどそう思ってたネ。一日に一回はそう思ってたアル。

「ただいま、って当たり前のように言えて、
 おかえり、って当たり前のように言ってもらえるのは初めてだったアル。
 だからネ、そう言って貰えるのがとっても、とっても嬉しかったアルヨ」

 銀ちゃんや新八が、必ずそう言ってくれたのに、何度救われたか。
 何度心を踊らせたか。

「昔の家では言ってもらえなかったヨ。
 マミーは病気で口が聞ける事なんてほとんどなかったし、
 パピーはほとんど家にいなかったネ。
 兄ちゃんも同じヨ。」

 ケホケホと必ず咳き込んでいるマミー。
 真っ暗で誰もいない家。
 
「ここにきてから、本当に色々変わったネ。
 夜兎族だからって、怖がられる事もなくなったヨ」

 全部、全部銀ちゃんたちのおかげアル。

「だからネ、銀ちゃん、」

 ここで、悲しい顔をしちゃいけない。
 泣いちゃだめだ。
 笑え、笑うんだ。

「今まで、本当にアリガトウ銀ちゃん。

 さようなら」

「神楽!」

 銀ちゃん、本当に今までアリガトウ。
 大好きだったヨ。

 
 











end