「あんたのことだよ、坂田銀八先生」
そう言って神威さんは先生の方を向いた。
こっちからは神威さんの表情は見えなかったけど、きっと今までの笑顔とは違ったんだと思う。先生の顔が一瞬真面目なものに変わっていたから。
その瞬間は、クラス中がピリッと張り詰めたものに変わっていた。
しかしそれは一瞬。
すぐにいつもどおりの3年Z組の雰囲気に戻った。
「何だよ、俺はそんな面白くねーぞ?
このクラスの奴等も面白いっていうよりはバカだからな」
そう意味でいったんじゃないと思うけど。
僕がそうツッコむ前に先生はポン、と「わかったぞ」というお約束の仕草をした。
「ああ、今はバカが面白いっていうときなのか
えーと、なんていうんだっけ?あのバカ3人の歌手
ほら、こういう歌を歌ってる ふーんふんふん、ふーんふんふん、」
鼻歌を歌いはじめる先生。この人は多分神威さんの言ってる事をわかってやっているんだと思うけど。
周りの人たちは「ああ、あいつだろー」「あのCD買ったよー」とかなんとか話してる。誰かとはあえて、ていうか言ってはいけない気がする。うん、言わないでおこう。
「ねぇ、俺の言ってる意味わかってるんでしょ?
あんた強いんだろ 勝負してよ」
神威さんは多分このクラスにぴったりの人材なんだろうけど(なんといっても神楽ちゃんのお兄さんだ)流石にこの先生のごまかしにはイライラしてきたみたいだ。といっても、顔は全然いらつきをみせない。むしろ笑顔が爽やかって言うか綺麗って言うか、いや、色々な言い回しをしてみたけど結局この笑顔は怖い。
しかし、先生はそんなことに全く動じていない。
一瞬、たった一瞬だけ先生の目が光った。
あまりにも短い間だったから誰も気づかなかったようだ。もしかしたら僕が見たのも気のせいだったのかもしれない。
「俺だってこんな年とってんだからよぉ、勝負とかねえだろ
すごく強いやつがこのクラスにいるぞ
たとえば、」
先生はそういって僕の後ろの方を見た。
僕も先生にならって後ろを見ることはできなかった。
だって、その視線の先はきっと、
「へ、屁怒絽くん、とか、」
先生は自分でしゃべっておきながら顔が真っ青だった。
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